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「忖度」無しの報道 "なんか"日本の報道に違和感を感じている人へ ちょっとクセあり番組だけど フォローしたら良いことあるかも?

地銀への信頼を利用した「仕組み債」販売の罠


千葉銀行のEB債トラブルに見る構造的問題

2018年4月、千葉県在住の60代女性のもとに、取引のあった千葉銀行の支店長代理から一本の電話が入った。
内容は、「退職金のご活用は決まりましたか」との提案だった。
退職金運用の話に関心を持った女性は、夫とともに支店を訪れることとなる。

応接室で待っていたのは、千葉銀行傘下の「ちばぎん証券」の営業担当者であった。
投資経験の有無すら確認されないまま勧められたのは、大手重工メーカーの株価に連動する「EB債(他社株転換可能債)」という、いわゆる仕組み債である。この商品は、株価があらかじめ設定された基準を上回れば年利6%超の利回りを得られるが、下回った場合は利回りが0.1%にまで下がり、満期時には現金ではなく株式で償還されるという設計になっていた。

女性が「株は未経験です」と不安を口にしたところ、営業担当者は「社債ですからご安心ください」と応じたという。価格下落リスクについても「ほとんど心配ありません」と説明された。

そのわずか1時間ほどの面談の末、夫婦は退職金と貯金の合計3,000万円をこのEB債に投資する決断を下した。千葉銀行という、長年信頼してきた金融機関の紹介という点が、判断の後押しとなったようである。

しかし、現実は期待を大きく裏切ることとなる。

予定されていた年4回の利払いは2回にとどまり、株価が基準を下回ったことで利回りも激減。
債券価格も下落し、一時は1,400万円程度にまで目減りした。最終的に株価は満期までに回復せず、債券は重工メーカーの株式8,000株余りで償還された。

その結果、約300万円の実質的な損失が確定し、残された株式の値動きにも引き続き注意を払う日々が続いているという。
夫は「地元の信頼する銀行の商品だったからこそ信用してしまった。結果として大きな裏切りを感じている」と話す。

他の銀行でも繰り返される「販売優先」の構造

こうした不適切な販売行為は、千葉銀行に限られた問題ではない。
たとえばスルガ銀行では、投資用不動産ローンをめぐる不正が発覚。
不動産会社と共謀し、顧客の通帳改ざんや不動産価格の水増しなどが横行していた。2018年10月、金融庁は同行に対して業務停止命令を含む行政処分を下している。

また、他の地方銀行でも、投資経験の乏しい高齢者や初心者に対し、複雑な金融派生商品を十分な説明なしに販売する事例が相次いでいる。
多くの銀行に共通するのは、営業担当者の収益目標として、仕組み債の販売件数が明示的に組み込まれていたという点である。

これは、販売の現場が「顧客の利益」ではなく「銀行自身の収益」を最優先にしていたことを示しており、極めて本質的な問題である。
とりわけ、千葉銀行のように地域社会との結びつきが深く、地元の人々から信頼を得ている金融機関においてその信頼を逆手にとるような営業が行われていた事実は、地方金融の根幹を揺るがす事態と言わざるを得ない。


EB債・仕組み債とは何か

―「高利回り」の裏に潜む重大なリスクー
仕組み債とは、通常の債券に金融派生商品(デリバティブ)を組み合わせた複雑な金融商品である。
株価や為替、金利の変動に応じて利率や償還方法が変化する「条件付き」の設計となっており、一般投資家にとっては仕組みそのものを理解することが困難な商品群でもある。

特にEB債(Equity-Linked Bond:他社株転換可能債)は、満期時に株価が所定の水準を下回っていた場合、現金ではなく株式で償還される特徴を持つ。株価が大幅に下落していれば、元本割れが確定し、数百万円規模の損失となるリスクも否めない。

EB債に内在するリスクの構造

  • 「社債だから安心」という誤認
    実際には株式市場の影響を強く受ける高リスク商品であり、一般的な社債とは性質を異にする。
  • 表面利回りの“条件付き”構造
    提示される年6%の利回りは特定条件を満たした場合に限られており、実際には0.1%未満の利息に終わるケースも存在する。
  • 販売側に高いインセンティブ
    仕組み債は3~5%程度の販売手数料が設定されており、営業現場では収益確保の手段として重宝されやすい。
  • 理解を困難にする複雑性
    株式オプションやノックイン条項などの高度な金融技術が用いられており、内容を十分に理解して購入した個人投資家は多くない。
  • 償還後の回復が困難
    一度株式で償還された場合、その株価が再び上昇しなければ、元本を回復する見込みは極めて乏しい。

消費生活センターによると、仕組み債に関する相談は2021年度だけでおよそ1,000件にのぼり、その多くが高齢者からのものであった。

投資ブームの影で損失が広がる現実

―銀行に求められる「信頼」の再定義ー
近年、若年層から高齢者まで、幅広い世代で投資への関心が高まりを見せている。
しかし、「皆がやっているから」という安易な動機に基づく投資判断は、危機を招く要因となる。

とりわけ、仕組み債のような商品は、構造が複雑で高リスクであるにもかかわらず、営業現場では「高利回り」「安全」といった一面的な魅力だけが強調されてきた。
これは、販売現場の教育・ガバナンス・コンプライアンスがいずれも形骸化している証左でもある。

本来、銀行とは地域住民の資産形成と生活防衛を支えるインフラであり、「顧客第一」の視点を失ってはならない。
しかし、近年の地銀を取り巻く環境は厳しく、低金利下での収益確保のために、証券子会社を活用した高リスク商品の販売が常態化している。

こうした構造が続く限り、再び同様の問題が発生する可能性は否定できない。
金融機関には、顧客との信頼関係を長期的に築く姿勢と、倫理性・説明責任を徹底する組織文化が求められている。
単年度の収益目標ではなく、「地域に資する存在」としての自律的なあり方が、いま問われているのではないだろうか。

関連サイト:
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参考サイト:
地銀の「安心です」信じたら…社債は株に変わり、退職金は一時半分に
証券取引等監視委員会:ちばぎん証券・千葉銀行・武蔵野銀行 に対する検査結果(事案の概要)
スルガ銀行株式会社に対する行政処分について
日本証券業協会:EB債(他社株転換可能債券)の特徴やリスクとは?

画像引用:https://www.kuwata-sekkei.co.jp/commercial/chibabank_omigawa/

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