――佐伯市・いすみ市が切り拓く「オーガニックシティ」の未来
序章――食の転換点に立つ日本
世界規模で進む気候変動と農村の衰退は、食料システムを根底から揺るがしている。農薬や化学肥料に依存した大量生産型農業は、収量を支えてきた一方で、土壌劣化や環境負荷、健康リスクを増幅させた。日本でも農業就業人口の減少が進み、輸入依存率の高さが国の安全保障に影を落としている。こうした背景の中、自治体発の有機農業モデルが注目されている。大分県佐伯市と千葉県いすみ市の事例は、日本農業の未来を切り開く実践例として、今大きな意味を持っている。
佐伯市「さいきオーガニックシティ」――担い手育成から始まる挑戦
大分県佐伯市は、「さいきオーガニックシティ」の実現を掲げ、持続可能な農業・農村を目指している。施策の柱は大きく四つ。
多様な担い手の確保・育成
新規就農者支援や有機農業スクールの開設を通じ、若者や移住者を呼び込む。
持続可能な農村づくり
農薬・化学肥料に依存しない農法を取り入れ、地域資源循環を基盤に。
地域に根ざす産地づくり
ブランド化と販路拡大を進める。
新たな価値創造
観光や教育と結びつけ、地域経済を循環させる。
佐伯市は「農薬不使用」という表現をあえて避け、「有機JAS」「栽培期間中農薬不使用」といった正確な言葉を選ぶ。これにより、誤解を防ぎつつ、消費者との信頼関係を築いているのが特徴だ。
いすみ市「オーガニックビレッジ」――学校給食から広がる革命
千葉県いすみ市は、地域ぐるみで有機農業に取り組む「オーガニックビレッジ」を宣言した。市の象徴は、無農薬・無化学肥料で育てられた特別栽培米「いすみっこ」だ。
さらに画期的なのは、2018年度から市内の学校給食で100%有機米を導入した点である。これは全国的にも稀有な取り組みであり、子どもたちが日常的に「有機を食べる」体験を得られる仕組みをつくった。加えて、田んぼでの生き物観察や食農体験、有機農業技術研修を展開し、次世代の農業人材と消費者意識の両面を育んでいる。
成功するオーガニックモデル――全国の動向
いすみ市や佐伯市以外にも、北海道下川町、福井県池田町、熊本県南阿蘇村などが有機農業による地域振興を進めている。共通点は、農産物の生産に留まらず、教育・観光・健康・環境を結びつけた複合的な地域戦略を取っていることだ。
山田正彦元農水相――「食の安全保障」を訴え続ける男
この潮流を国政レベルで後押ししてきたのが、元農林水産大臣の山田正彦氏である。山田氏は、種子法廃止や遺伝子組換え作物の輸入自由化に警鐘を鳴らし、「食料主権」を守る活動を続けている。著書『タネが危ない』では、企業主導の農業政策が自給を脅かし、農村崩壊を招く危険性を指摘。有機農業は単なる栽培方法ではなく、国家存立の基盤である食料主権を守る防波堤と位置付ける。
『タネは誰のもの』(英題:Whose Seeds?)
概要
2020年公開のドキュメンタリー映画で、山田正彦氏が製作総指揮。
タイトルが示す通り、「種子の公共性」をテーマに据え、種苗法改正や特許種子制度の問題を取り上げている。
内容のポイント
種苗法改正によって農家が自家採種できなくなるリスク。
日本で進む「グローバル種子支配」の現状。
海外(インド・アフリカ・米国など)での種子を巡る闘争。
映画の役割
「食の主権」や「農の自由」をテーマに、市民に考えるきっかけを与える。特に若い世代や都市住民に「タネ問題は自分と無関係ではない」と気づかせる啓蒙の場となっている。
『食の安全を守る人々』(英題:Seeds of Hope)
概要
2021年に公開されたドキュメンタリー映画で、監督は原村政樹氏。山田正彦氏は製作総指揮を務めた。
日本各地や世界の農家、市民運動を取材し、種子法廃止・遺伝子組換え作物・農薬問題など「食の安全保障」に関わる課題を映し出している。
内容のポイント
種子法の廃止が農業と食卓にどのような影響を与えるか。
モンサント(現バイエル)など多国籍企業による種子支配の実態。
各地で種を守ろうとする市民運動や農家の声。
映画の役割
政策の動きを難しい専門用語ではなく、映像とストーリーを通して「消費者の目線」で理解できる形にし、一般市民に警鐘を鳴らす役割を果たしている。
JAとモンサント――ラウンドアップ依存の構造
一方で、日本の農業団体JAは、米国モンサント社(現バイエル)の除草剤「ラウンドアップ」を推進してきた歴史を持つ。ラウンドアップの主成分グリホサートは、発がん性や生態系への影響が国際的に問題視されており、欧州では規制の動きもある。だが、日本では農薬基準が緩和され、輸入小麦や大豆に残留するグリホサートの許容値が大幅に引き上げられている。背景には、輸入依存体制と多国籍企業の影響力が存在する。
モンサントと堀江貴文――ビジネスと倫理の狭間
さらに注目されるのが、実業家堀江貴文氏(ホリエモン)の発言だ。
「みんな水素水とかコラーゲンとかは大好物なんですよ。でも、遺伝子組換えは大嫌い。放射能は大嫌い。要はケミカルとオーガニックという宗教で分かれている感じ。…『モンサントってイケてるよね』『遺伝子組換えってイケてるよね』っていう文化を作っていくしかないと思うんです。」
堀江氏は遺伝子組換え食品に対して肯定的で、モンサントジャパンとのビジネス的な親和性を見せてきた。合理主義を掲げ、「遺伝子組換え作物の危険性は過大評価だ」と主張する一方、批判者からは「企業の利害に寄り添いすぎている」と指摘される。モンサントの利害を代弁するような言説は、オーガニック推進派との対立を際立たせている。
有機農業は「反グローバル資本」の旗印
オーガニックの推進は、単なる栽培技術の選択にとどまらない。それは、グローバル資本が支配する食料システムに対抗する地域主権的な営みである。佐伯市やいすみ市の挑戦は、地域が主体となり、子どもや市民の食の安全を守る仕組みをつくり出している点に意義がある。そこには「安全でおいしい食」を超えた、政治的・経済的な意味が込められている。
結論――次の時代の「食と農」
いま、私たちの食卓は選択を迫られている。ラウンドアップに依存する大量生産型農業の延長線に未来を託すのか、それとも有機農業を軸にした持続可能な農村づくりに踏み出すのか。佐伯市、いすみ市、山田正彦氏の活動は、その問いに対する実践的な答えを提示している。オーガニックは「贅沢」ではなく、未来の社会を持続可能にするための必須の基盤なのだ。
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