「忖度」無しの報道 "なんか"日本の報道に違和感を感じている人へ ちょっとクセあり番組だけど フォローしたら良いことあるかも?
■「辞めたいのに辞められない」現代の病理
「明日から会社に行かなくて済む」――そんな魔法のような宣伝文句が、いま若者を強く引きつけている。
退職代行サービスの急拡大だ。
コールセンターで働いていた30代男性は、朝から終電を過ぎても仕事が終わらない長時間労働の地獄に耐えかね、上司に退職を申し出た。だが、返ってくるのは「人手不足だからもう少し頑張ってくれ」の一言。何度も辞意を示したが、数カ月にわたり引き止めの網から逃れられなかった。
限界を迎えた彼がすがったのは退職代行だった。インターネットで検索し、「労働組合と連携」「交渉可能」とうたう業者を選び、数万円を支払った。だがそこで待っていたのは、別のトラブルだった。
■「本人か弁護士でないと話はできない」
会社に業者を通じて退職の意向を伝えると、返ってきたのは冷たい一言だった。
「退職日や条件の調整は本人か代理人弁護士とでないと応じられない」。
困惑した男性は業者に助言を求めたが、「自分で会社と連絡するか、弁護士に依頼するしかない」と突き放される。さらに「労働組合に交渉してもらえる」と説明され、組合費として数千円を業者経由で振り込むよう求められた。
しかし、組合に直接連絡できるかと聞くと、業者は「自社を通すように」と強硬に主張。次第に不信感が募り、最終的には別の退職代行に切り替えるしかなかった。
このケースは決して珍しくない。退職代行ブームの陰で、「非弁行為」の疑いが渦巻いている。
■弁護士会が動いた――異例の注意喚起
東京弁護士会は2024年、退職代行サービスをめぐり異例の注意喚起を行った。
弁護士法72条は、弁護士以外の者が報酬を得て「法律事件に関する代理や交渉、和解のあっせん」を業とすることを禁じている。
つまり、退職の意思を「伝えるだけ」であれば問題は少ないが、退職日・有休消化・未払い賃金・慰謝料といった条件交渉に入った途端、弁護士の独占業務に踏み込むことになる。
若者にとっては「辞めるためのお金」と思って支払った数万円が、実は違法行為に加担してしまうリスクをはらんでいるのだ。
■なぜ若者は「退職代行」に走るのか
①引き止めの強さ
人手不足が慢性化する企業現場では、「辞めます」と伝えても「今は困る」と返されるのが常態化している。退職願が握り潰され、精神的に追い詰められていく。
②対面交渉の心理的負担
パワハラ上司や威圧的な人事に向かって辞意を告げることは、精神的なハードルが極めて高い。直接対峙せずに済むなら、数万円は安いと考える若者も少なくない。
③SNSの拡散
「退職代行に頼んだら翌日から出社しなくてOKだった」といった体験談がX(旧Twitter)などで拡散。口コミが需要を押し上げ、若者の間で“常識化”しつつある。
こうして退職代行は、現代の「逃げ道」として急拡大している。
■「弁護士でないと代行できない」の本当の理由
法律上、退職は民法627条により「期間の定めのない雇用なら2週間前の予告で一方的に辞められる」。
しかし実務では、退職日や引継ぎ方法をどうするか、有休をどう消化するかといった「条件のすり合わせ」が避けられない。
この条件調整は法的権利の行使に直結するため、弁護士以外が報酬を得て介入すれば非弁行為になる。
会社側も「本人か弁護士でなければ交渉に応じない」と断固とした姿勢をとるケースが多い。
つまり、「退職意思を伝えるだけ」の使者と、「条件交渉まで担う代理人」の間には、法律上の大きな溝が横たわっている。
■労組連携の甘い誘い
退職代行の広告で目立つのが「労働組合と連携」「団体交渉可能」という謳い文句だ。
確かに労働組合は団体交渉権を持ち、会社と交渉できる。だが問題は、代行業者が報酬を得て組合交渉を斡旋する構図である。
弁護士会の見解では、これこそが非弁行為の典型例になり得る。利用者が直接組合に加入して交渉を依頼するなら合法だが、「業者経由で金を払い、交渉の窓口も業者が握る」形は極めて危険だ。
「労組提携だから安心」という宣伝文句は、若者を巧妙に取り込むワナでもある。
■弁護士以外に頼むとどうなる?
非弁行為を行った業者には刑事罰のリスクがあるが、実害を被るのは利用者だ。
交渉が無効化され、再び本人が矢面に立たされる
拙い対応で有休や未払い賃金を取り損ねる
結局は弁護士に依頼し直す二度手間
安さやスピードを優先したはずが、結果的に時間もお金も失う。これが退職代行に潜む「高くつく安物買い」だ。
■安全に辞めるための「三つの鉄則」
ケースを仕分ける
単純な退職意思の伝達なら代行業者でも対応可能。ただし退職日の調整や金銭トラブルが絡むなら弁護士一択。
広告の赤信号に注意
「交渉できます」「慰謝料請求まで対応」とうたう業者は非弁リスク大。労組提携を強調する場合も要警戒。
窓口の透明性を確認
組合加入なら、利用者が直接連絡できる体制かをチェック。業者経由限定の送金や交渉は危険信号だ。
■まとめ――「辞める自由」を守るために
退職代行は、出口をふさがれた若者にとって最後の逃げ道となりうる。
だが、そこには法の壁と非弁リスクが立ちはだかる。
「辞めたいのに辞められない」現実があるからこそ、退職代行が支持される。
しかし、交渉を伴う代行は弁護士業務であり、非弁行為に足を踏み入れれば利用者に不利益が降りかかる。
安心して辞めるためには、最初から弁護士に依頼するのが最短で安全なルートだ。
若者をのみ込む退職代行バブル。その裏で、弁護士会が「異例の注意喚起」に踏み切った背景には、利用者保護の切実な危機感がある。
「退職」は誰にでも認められた権利。その権利を守るために必要なのは、魔法のような宣伝に踊らされず、冷静に合法の線を見極める目だ。
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